vol.002　弱く、勇敢な女

『一杯の物語 TeaStory』　

002

弱く、勇敢な女

窓辺で揺れるカーテンの隙間から、陽の光が細く射している。テーブルの上には湯気を立てるティーカップがあり、ほのかなバラの香りが漂う。“VENUS”という名のハーブティーだ。

“VENUS”ーーー　愛と美の象徴だというのに、私にとっては、この名前が少しばかり皮肉に感じられる。ティーカップを手に取り、ゆっくりと口に運ぶと、淡くやわらかな香りが鼻腔を満たした。どこか懐かしい花の匂い。ふわりとした幸福感と、ほろ苦さが舌先に絡みつく。そう、まるで人生のややこしさを凝縮したような味だ。

私たち女は、この「ややこしさ」と付き合っている。いや、むしろ付き合わざるを得ないのだろう。生き方、働き方、愛し方。周囲が求める理想と、自分自身の本音との間で、女たちは絶えず揺れている。その揺れは、ときに美しいほど繊細で、ときに残酷なほど複雑だ。
私たち女は、この「ややこしさ」と付き合っている。いや、むしろ付き合わざるを得ないのだろう。

生き方、働き方、愛し方。

周囲が求める理想と、自分自身の本音との間で、女たちは絶えず揺れている。その揺れは、ときに美しいほど繊細で、ときに残酷なほど複雑だ。

「あなたは強いわね」

人から言われるその言葉が、いつからか重荷になった。強くありたいと思う自分と、強さなんて持ち合わせていないと感じる自分。背中合わせに存在する双方が、自分の中で交互に顔をのぞかせる。そのたびに、心はざらりと砂を噛むような虚しさを味わう。強さとは何なのか、私は本当に強いのか。問いかければ問いかけるほど、その輪郭はぼやけてしまう。

けれど、時折ふと感じるのだ。強さとは、弱さと向き合う勇気のことなのかもしれないと。逃げたい、泣きたい、そんな心を静かに受け止めること。迷い、揺れ動きながらも、自分の足で立ち続けること。

そう、勇気とはきっと、自分の弱さから目をそらさず、震える手で真実を拾い上げることだ。

ハーブティーのぬくもりが、指先から胸元へとじんわりと広がっていく。“VENUS”はやさしく、私に語りかける。美しさは完璧さの中にあるのではない。むしろ、不完全さの中にこそ、本当の魅力が潜んでいるのだと。

カーテンがまた風に揺れ、光の筋が細く伸びる。私はもう一度、静かにカップを傾ける。舌の上で広がる優しい香りが、心に静かな波紋を投げかける。

私は女である。ややこしく、弱く、けれど勇敢な、ひとりの女なのだ。