シングルハーブティーのススメ その一杯が、風景を連れてくる

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シングルハーブティーのススメ

その一杯が、風景を連れてくる

文 セタユウジ

私たちの暮らしには、ハーブティーが少しずつ、けれど確かに溶け込んできました。

「眠れない夜にリラックスブレンドを」
「すっきりしたい朝にミントが効いた目覚めのブレンド」。

そんなふうに、気分に合わせて自然に選ばれることが増えてきた気がします。

多くの場合、ハーブティーはブレンドされています。飲みやすくて、まとまりがあって、安心感もある。でも今日は、その“ブレンドされた一杯”を、少しだけほどいてみるお話をします。

シングルハーブとは、“植物そのもの”を味わうこと

一般的なお茶、たとえば緑茶や紅茶は、実はどれも「茶の木(カメリア・シネンシス)」という一つの植物から作られています。発酵の度合いや製法の違いによってバリエーションが生まれていますが、原料となる植物は基本的に一つです。

それに対してハーブティーはどうでしょう?
「カモミール」「レモンバーム」「ネトル」「ローズマリー」…名前を挙げればきりがないほど、多くの種類があります。しかも、それぞれがまったく異なる植物で、異なる香り、味、色、効能、そして背景を持っています。

つまり、ハーブティーとは100種類以上の“異なる植物たち”が、それぞれの個性で競演している世界なのです。

そしてその個性を最もストレートに感じられるのが、“シングルハーブ”として味わう方法。ひとつのハーブだけで淹れた一杯には、その植物が持つ香りや味、エネルギーのすべてが現れます。

僕はブレンドの妙も大好きですが、その土台になる一つひとつのハーブと、しっかり向き合う時間もまた、とても贅沢だと感じています。

ハーブには、その土地の風が吹いている 

同じ種類のハーブでも、どこで育ったかによって風味は全く違います。
世界中で育てられているカモミール。エジプトやヨーロッパ、日本でも北海道や本州(僕の畑もあります)から九州でも栽培されています。

「どこのハーブが良い/悪い」という話ではありません。大切なのは、その土地の空気や土や太陽の記憶が、ちゃんと味に表れているということ。

苦味が少し強いとき、「ああ、この年は虫が多かったのかな」なんて想像することもあります。植物は虫から身を守るために、苦味成分を放出して外的を寄せつけないようにします。このように香りや成分を少しずつ変化させている。そんな“物語のような現実”を感じながら飲む一杯は、ただ美味しい以上の何かを教えてくれる気がするのです。

同じお茶でも、感じ方は変わる 

同じハーブを同じように淹れても、昨日と今日で味の印象が違うことがあります。
「今日は香りが強く感じるな」「昨日よりもまろやかかも」──そんな変化に気づくとき、実は変わったのはハーブではなく、私たち自身かもしれません。 

体調や気分、時間帯によって、味覚や香りの受け取り方は変わります。
だからこそ、シングルハーブティーは、そのときの“自分の状態”を静かに映してくれる鏡のようでもあります。
正解の味なんてなくて、「いま、どう感じたか」がすべて。

それが、ハーブのやさしさであり、懐の深さなんだと思います。

そこから生まれる、自由な組み合わせ 

ひとつのハーブをじっくり味わってみると、自然と「これとこれを合わせてみたらどうだろう?」という気持ちが芽生えてきます。
それが、ブレンドのはじまりです。

たとえば、お気に入りの日本茶にミントを少しだけ加えてみる。
あるいはカモミールティーにレモングラスを添えて、香りをふわっと立ち上げてみる。

そんな風に、自分の感覚をたよりに、遊ぶように組み合わせてみると、ハーブティーはもっと身近になります。

昔から伝わる“黄金の組み合わせ”も素晴らしいですが、気分や好みで自由に楽しんでみる。それもまた、ハーブと仲良くなるひとつの方法です。

静かに向き合う、植物の声 

ハーブティーは穏やかで寡黙です。
でも、その静けさの中には、たくさんの記憶と気配が詰まっている。

土のにおい、雨の音、風の感触、虫の動き、そして自分自身のゆらぎ。
それらすべてが、カップの中に小さくまとまっている。

もしよければ、今度お茶を淹れるときに、
ひとつだけのハーブを選んでみてください。

そこには、少し前の自分がいたり、
まだ知らない風景がひそんでいたりするかもしれません。
ハーブティーは、ただの飲み物ではありません。

静かに寄り添ってくれる、
植物からの手紙のようなものだと思っています。

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シングルハーブティー

のススメ

その一杯が、風景を連れてくる

文 セタユウジ

私たちの暮らしには、ハーブティーが少しずつ、けれど確かに溶け込んできました。

「眠れない夜にリラックスブレンドを」
「すっきりしたい朝にミントが効いた目覚めのブレンド」。

そんなふうに、気分に合わせて自然に選ばれることが増えてきた気がします。

多くの場合、ハーブティーはブレンドされています。飲みやすくて、まとまりがあって、安心感もある。でも今日は、その“ブレンドされた一杯”を、少しだけほどいてみるお話をします。

シングルハーブとは、“植物そのもの”を味わうこと

一般的なお茶、たとえば緑茶や紅茶は、実はどれも「茶の木(カメリア・シネンシス)」という一つの植物から作られています。発酵の度合いや製法の違いによってバリエーションが生まれていますが、原料となる植物は基本的に一つです。

それに対してハーブティーはどうでしょう?
「カモミール」「レモンバーム」「ネトル」「ローズマリー」…名前を挙げればきりがないほど、多くの種類があります。しかも、それぞれがまったく異なる植物で、異なる香り、味、色、効能、そして背景を持っています。

つまり、ハーブティーとは100種類以上の“異なる植物たち”が、それぞれの個性で競演している世界なのです。

そしてその個性を最もストレートに感じられるのが、“シングルハーブ”として味わう方法。ひとつのハーブだけで淹れた一杯には、その植物が持つ香りや味、エネルギーのすべてが現れます。

僕はブレンドの妙も大好きですが、その土台になる一つひとつのハーブと、しっかり向き合う時間もまた、とても贅沢だと感じています。

ハーブには、その土地の風が吹いている 

同じ種類のハーブでも、どこで育ったかによって風味は全く違います。
世界中で育てられているカモミール。エジプトやヨーロッパ、日本でも北海道や本州(僕の畑もあります)から九州でも栽培されています。

「どこのハーブが良い/悪い」という話ではありません。大切なのは、その土地の空気や土や太陽の記憶が、ちゃんと味に表れているということ。

苦味が少し強いとき、「ああ、この年は虫が多かったのかな」なんて想像することもあります。植物は虫から身を守るために、苦味成分を放出して外的を寄せつけないようにします。このように香りや成分を少しずつ変化させている。そんな“物語のような現実”を感じながら飲む一杯は、ただ美味しい以上の何かを教えてくれる気がするのです。

同じお茶でも、感じ方は変わる 

同じハーブを同じように淹れても、昨日と今日で味の印象が違うことがあります。
「今日は香りが強く感じるな」「昨日よりもまろやかかも」──そんな変化に気づくとき、実は変わったのはハーブではなく、私たち自身かもしれません。 

体調や気分、時間帯によって、味覚や香りの受け取り方は変わります。
だからこそ、シングルハーブティーは、そのときの“自分の状態”を静かに映してくれる鏡のようでもあります。
正解の味なんてなくて、「いま、どう感じたか」がすべて。

それが、ハーブのやさしさであり、懐の深さなんだと思います。

そこから生まれる、自由な組み合わせ 

ひとつのハーブをじっくり味わってみると、自然と「これとこれを合わせてみたらどうだろう?」という気持ちが芽生えてきます。
それが、ブレンドのはじまりです。

たとえば、お気に入りの日本茶にミントを少しだけ加えてみる。
あるいはカモミールティーにレモングラスを添えて、香りをふわっと立ち上げてみる。

そんな風に、自分の感覚をたよりに、遊ぶように組み合わせてみると、ハーブティーはもっと身近になります。

昔から伝わる“黄金の組み合わせ”も素晴らしいですが、気分や好みで自由に楽しんでみる。それもまた、ハーブと仲良くなるひとつの方法です。

静かに向き合う、植物の声 

ハーブティーは穏やかで寡黙です。
でも、その静けさの中には、たくさんの記憶と気配が詰まっている。

土のにおい、雨の音、風の感触、虫の動き、そして自分自身のゆらぎ。
それらすべてが、カップの中に小さくまとまっている。

もしよければ、今度お茶を淹れるときに、
ひとつだけのハーブを選んでみてください。

そこには、少し前の自分がいたり、
まだ知らない風景がひそんでいたりするかもしれません。
ハーブティーは、ただの飲み物ではありません。

静かに寄り添ってくれる、
植物からの手紙のようなものだと思っています。

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